邪教の大神官は二度ノックを鳴らす

ボードゲーム関連ブログ。だいたいレビューと感想。本家ウェブサイトはhttp://tantramachine.com

文字禍ウント デザイナーズノート

 初めてゲームを作る人がいきなりデザイナーズノートを書くのもどうかと思うのですが、ゲームの内容を多くの方に知っていただきたいという理由もありまして、デザイナーズノートを書くことにしました。

 

 ゲームも買ってね!

 

 アイディアが浮かんだのは、春ゲムマでソルナーギルドで出展をご一緒した際、BUNGU GAMESについてソルナーゲームズのメイチソラさんから語っていただいた時のことでした。ただ、アイディア自体は思いついたものの、ゲームにしてみようと思い話をしたのはその後のボードゲーム楽市でした。「クリアファイルの中にチラシを入れ、部分的に見えているところの文字を数える」アイディアをかいつまんで話したところ、是非作って下さい! と仰っていただいたので、自信を持って名古屋テストプレイ会にゲームを持っていこうと踏ん切りをつけました。

 実はこのゲームは既にこの時点で完全版の6-7割のアイディアは出来ていましたし、更にいうと既に別のゲームを作ろうとこねくり回していたところでした。そちらはアートワークはほぼ完成していて既にテストプレイも10回以上回していたのですが、ゲームとしての形は出来ていたものの、肝心のゲームとしての面白さのコアが何にもない、普通にテストプレイしたらこのゲーム買わないな、と思いながらテストプレイをしていたところがあったため、思い切ってペンディングしクリアファイルゲームに注力することに決めました。

 このゲームはアイディアがひらめいた時から間違いなく面白くなるという確信を持っていたのですが、大体いいゲームってじわじわ良くなっていく事ってなくて、安産な作品の方が大体上手くいく(絵でも)と思っていたので、即お通夜はないと思っていました。実際初めてのテストプレイでは割といい感触だったのですが、それはそれとして核の部分以外は相当ふんわりしていました。あと、私は大体ルールは最初に書いちゃいます。そうすることで、頭の中のふんわりしたイメージが具体化して動き出す感じがあるんですね。言語化って私にとってはかなり重要なゲーム制作のファクターなんですよね。

 で、最初のバージョンと今のバージョンの違いは
・プレイ人数2-4人

・手番順があり、スタートプレイヤーからどの紙片を選ぶかを順番にチェックしていく

・文字数が即時得点、2位、3位と得点が半減されていく、かつプレイヤー人数でその得点を分ける

 というゲームでした。

 意図としては、敢えて点数の高そうなところを選んだスタートプレイヤーの後追いをすることで点数を削っていく、という戦略要素が入れられるんではないかなと思ったのですが、それって要するにキングメーカーなのであまり選択するうま味はないんですよね。点数減少を見越してかぶらないようにするしかないので後番が不利かもしれないという(後番の方がチラシとクリアファイルを見比べる余裕があるので、有利そうな場所を選びやすいかもしれませんが)点などもあり、またテストプレイ時に、メイチさんだったと思うんですが、同時出しで場所を選ぶ方がいいのでは? というご意見もいただいたので、同時出しで場所を選んでもらう方式にしました。

 ただ個人的には同時出しはちょっとモヤるところがありまして、ゲムマの軽い目のゲームってバッティングのメカニクスが大変多いので、ちょっと安直かなあという気持ちがあってあまりやりたくなかったのはあります。結果的にこのゲームにはしっくりはまったので、現状ではまあ良かったのかなとも思っています。そもそもチラシをクリアファイルに入れて、文字数を数えるというゲームはかなりカジュアル目のゲームを意図して作っているので、変に考えさせる要素を入れてゲームが遅延するよりはせーので場所を選ばせた方がテンポも良くなりますしね。

 で、バッティングの要素を入れて早速つまづきが出ました。早いなおい。

 どこを選ぶかをクリアファイルを指さす方式にしたんですが、座っている場所によって選びたい場所を指させずに、意図していない場所をうっかり指してしまう事が結構あったのです。勢いよく誰かが指さすと、被るのが嫌で避けたり日和ったりしちゃう現象です。そもそも盤面がクリアファイルでA4一面なので、成人4名がせーので指さすと割と手狭です。

 この解決策は盤面を区切って数字を振り、その数字を指で示してもらうことで解決しました。

 また、このゲームはプレイ人数2名だとほぼゲームとして成り立たないことにこの時点で気づきました(テストはしていなかった)。プレイ人数も増やせそうなので、この時点で3-5にプレイ人数を増やしてテストし、ゲームが普通に成立したのでプレイ人数は5までにしました。6まで増やすと盤面の都合(点数記録する場所を広げなければならなくなる)等があり、また判定文字種が5なので被りなしが難しくなるので、綺麗に5で収まる方がいいかなと考えて5までにしました。ここで、文字種を毎回全部変えるルールに変更。

 

 点数周りも実は割と早い段階で、文字数=点数から、点数を固定に変更しました。文字数=点数は一度稼ぐと逆転が不可能なケースが多々あるのと、文字数数えるだけでまあまあ時間を取るので、皆が文字数多い細かい字のチラシを持ち込むとゲームが遅滞してテンポが悪くなりそうだったのでオミット。逆に、文字数が最少(0はダメ)のルールを入れることで結構締まるんじゃないかなと思いました。ただ、テストプレイだとやはり最初は最多数を皆競いたがるんですけどね。

 既にこの辺りでほぼゲームの処理などは固まっていて、後は点数周りのわかりやすさなどのUIで何とかするしかない部分にまで入っていました。

 しかし、この時点で私、自分のイベント(ミニボドゲフリマ@なごや)をやることを決めてしまっており、アートワークの調整は9月までずれ込むことになりました。ココが一番大変だった!

 

 実はこのゲーム、途中でテーマが変わってるんです。

 このタイトルになる前は(仮)文字コレとか、レタコレとかそんな名前でした。文字をコレクションするゲームだったわけです。というかそもそも、舞台が古代バビロニアではなく1万年後の地球で、プレイヤーはに降り立った宇宙人か未来人。文明が滅びた地球の中から見つかった紙片を元に現代の文明と言語を分析し、過去を知ろう! という設定でした。こんなのアートワーク載せようがねえじゃん! みたいな感じでしたが、名前を決める時点で二転三転し、ふと閃いたのが私の好きな小説家・中島敦の掌編「文字禍」でした。読み返してみて、あ、これならゲームに使えるなと(ちょっと強引でしたけども)考えて、「文字禍ウント」に決定。名前決めると色々な方向性が固まるので、大事ですよ。っていうか今回は完全にメカニクス先行だったので、テーマとアートワーク(自分が書きやすい奴)とタイトルとをフィッティングさせるのがめえっっっっちゃ面倒臭かったです! とまれ、中島敦は面白いので創作者全員読め。全力で刺さるぞ。

 あと英語タイトルをボドゲーマに登録する際に考えなきゃいけなかったんですけど、英語版Wikipedia文豪ストレイドッグスに言及されてたのは、あの作品海外でも評価されてたのかってちょっと驚きでした。フォローしてない作品なので全然知りませんでした……。で、英語タイトルですが、moji-countとかではなく、Spell Countにしました。Spell Counterとかではない。Spellは呪文ですね。呪文=呪術=綴り 禍=災いなので、呪いの言葉としての呪文と、綴りを引っかけております。こういうことも(言語依存が著しいので、このヴァージョンで海外ユーザーに遊んでもらう可能性はほぼゼロですが)考えておかないと行けないので、ゲームデザイナー色んな事デザインしなきゃいけなくて大変ですね……。

 で、イラストはまあちょいちょいっと書いたんであまり困りませんでしたが、今回はルールブックが大変でしたね。ルール自体はもちろん既に書いていたのですが、

・内容的に図解がかなり必要になる

・にもかかわらず、クリアファイル一枚で完結させるというコンセプトだったので使える面積は大変限られている(つらい)
・老眼勢にも遊んでもらえるように文字サイズを8pt未満には絶対しない(コレは大体いつものこだわり)

 なので説明書は図解を入れたヴァージョンから3回くらい叩いて大分改稿しました。そしてその叩きに付随して盤面のデザインも大幅に変更されました。

変更点

・紙片に振った丸付数字を全部カラーにして文字を大きく

・紙片の横に指の表し方のアイコンを追加

・枠の色を原色からちょっと抑えた色に(丸付数字を目立たせるため)

・得点記録欄の文字配置を変更

 なお得点記録欄のラウンド数とプレイヤー人数はくさび形文字を採用しましたが、これは紙片の丸付文字と区別するためです。同じ数字を使うと混同する可能性があるので、好評ではなかったですがココは変えませんでした。わかりやすくはないですが、漢字にするとテーマから外れますしね。プレイヤー名は左から詰めて書いてもらえるようなデザインにしましたが、その一言を添えるというのを完全に忘れてましたテヘー。わかってもらえるといいんですけど。もちろん左詰で書かなくても大きくは問題ないと思います。

 こういうスタイルのゲームはUIがプレイアビリティに強い影響を及ぼすので、入稿ギリギリまで盤面デザインは詰めて、色々な人に見てもらって意見を聞いて直しました。

 

 逆に、全然気を遣わなかったのは文字を見せる窓枠の位置です。一応ギリギリフチに配置したりはしないようにしましたが、実際上手く働いているかはよくわかりません。統計取ったりしとけば良かったかもしれないですね。

 

 ゲームがシンプルなメカニクスで、その部分だけで十分面白いので、「文字のサイズが最も大きかったものはボーナス」等の追加要素は、要望はあったものの一切入れませんでした。枠のサイズが限られるため、文字が大きいと結局全部入ることはなく、1文字が完全に枠から見えないと文字数にカウントされないルールを採用したためあまり意味はないと考えたのです。他にもいくつかアイディアはもらいましたが、要素が増えそうなものは全てオミット。メカニクスのコアが決まっているからこそ要素の取捨選択にあまり迷わずに済みました。

 

 今回BUNGU GAMESという企画があって初めて自分の作品が送り出せたので、BUNGU GAMESのお二人には大感謝です。縛りがあると作品を作りやすいという発想はそれなりにゲームを作る思考訓練を重ねた人間のそれだと思うので、他の方にとって作りやすかったかどうかはわからないのですが、このコンセプト出なかったらきっとまだ「地獄のクソデカイチゴ狩り(ペンディングしたゲーム)」を弄くっていてゲームデザイナーデビューは出来なかったと思います。

 クリアファイルゲームのいいところは、小ロットで作れてまあまあ安く、入稿~現物完成の時間にかなり余裕があり、何と言っても収納スペースをあまり取らないところなので、いいアイディアが浮かんだらBUNGU GAMESさんに問い合わせてみるのもいいと思いますよ!(宣伝)

 

 実質テストプレイ回数は10回もしてない気がします。でも5回は回してます。なんの参考にもならんか。どちらかというとメカニクスが固まってからのルール執筆にめちゃくちゃ力を入れたゲームです。一応UI周りは結構気を遣ったつもりですが、色合いとか(あまり影響はしないですけど)でどれくらい配慮できていたかが自分的にはそんなに自信がないですが、今後のゲーム制作やアートワークへの取り組みに活かしていきたいので、忌憚なきご意見をいただければ幸いです。